上場企業のウェブアクセシビリティ方針に関する調査結果
2024年4月1日に障害者差別解消法が改正され、合理的配慮が一般企業にも義務化されました。
ウェブアクセシビリティについても、多くの引き合いをいただいており、サイトオーナー様、制作会社様、弊社の三人四脚で各サイトへの対応を進めさせていただいております。
そこで、東証上場企業3931社のウェブサイトに「ウェブアクセシビリティ方針(ウェブアクセシビリティポリシー)」の有無を調査しました。
調査方法は、
- 各サイトのトップページに移動
- ページ内に「アクセシビリティ方針」「アクセシビリティポリシー」などのリンクがあれば開く。
- ない場合には「サイトポリシー」「このサイトの利用について」などのリンクを開く
- ここにも「アクセシビリティ方針」「アクセシビリティポリシー」がない場合、該当サイトは方針なしとしてカウント。
- 該当ページがあった場合、「規格」と「目標」があった場合、方針ありとしてカウント。
大前提として、アクセシビリティ方針がないからアクセシブルなサイトではない、ということでも、アクセシビリティ方針があるからアクセシブルなサイトである、ということもでもありません。
また階層が深いところに設置したり、トップページにリンクが設置されていない場合、カウントできていない可能性があります。
ただ、その役割から考えるに、トップページやポリシーなどに表記がない場合、存在しないのと同じで考えてよいかと思います。
結果詳細
会社数 | 方針の有無 | 業界割合 | 全体から見た割合 | 全体の方針アリから見た割合 | |
---|---|---|---|---|---|
全体 | 3931 | 104 | 2.6 | 100.0 | |
ガラス・土石製品 | 54 | 1 | 1.9 | 0.0 | 1.0 |
ゴム製品 | 18 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
サービス業 | 556 | 7 | 1.3 | 0.2 | 6.7 |
その他金融業 | 38 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
その他製品 | 107 | 2 | 1.9 | 0.1 | 1.9 |
パルプ・紙 | 24 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
医薬品 | 77 | 7 | 9.1 | 0.2 | 6.7 |
卸売業 | 309 | 10 | 3.2 | 0.3 | 9.6 |
化学 | 210 | 5 | 2.4 | 0.1 | 4.8 |
海運業 | 11 | 1 | 9.1 | 0.0 | 1.0 |
機械 | 223 | 2 | 0.9 | 0.1 | 1.9 |
金属製品 | 90 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
銀行業 | 79 | 11 | 13.9 | 0.3 | 10.6 |
空運業 | 6 | 2 | 33.3 | 0.1 | 1.9 |
建設業 | 160 | 2 | 1.3 | 0.1 | 1.9 |
鉱業 | 6 | 1 | 16.7 | 0.0 | 1.0 |
小売業 | 356 | 3 | 0.8 | 0.1 | 2.9 |
証券、商品先物取引業 | 41 | 1 | 2.4 | 0.0 | 1.0 |
情報・通信業 | 618 | 15 | 2.4 | 0.4 | 14.4 |
食料品 | 125 | 8 | 6.4 | 0.2 | 7.7 |
水産・農林業 | 12 | 1 | 8.3 | 0.0 | 1.0 |
精密機器 | 49 | 1 | 2.0 | 0.0 | 1.0 |
石油・石炭製品 | 11 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
繊維製品 | 49 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
倉庫・運輸関連業 | 37 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
鉄鋼 | 42 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
電気・ガス業 | 25 | 3 | 12.0 | 0.1 | 2.9 |
電気機器 | 241 | 14 | 5.8 | 0.4 | 13.5 |
非鉄金属 | 35 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
不動産業 | 157 | 0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
保険業 | 15 | 4 | 26.7 | 0.1 | 3.8 |
輸送用機器 | 88 | 1 | 1.1 | 0.0 | 1.0 |
陸運業 | 63 | 2 | 3.2 | 0.1 | 1.9 |
- 「会社数」は、カテゴリごとの会社数をカウントしています。
- 「方針の有無」は、カテゴライズされた会社の中で方針がある企業数です。例えば「ガラス・土石製品」は54社のうち方針があるのは1社です。
- 「業界割合」は、「カテゴリ内の方針の有無÷カテゴライズされた会社数」です。「ガラス・土石製品」は54社中1社なので1.9%です。
- 「全体から見た割合」は「カテゴリ内の方針の有無÷全体の会社数」です。「ガラス・土石製品」だと3931社中1社なので0%です。
- 「全体の方針アリから見た割合」は、「カテゴリ内の方針の有無÷全カテゴリ合算の方針の有無」です。「ガラス・土石製品」だと104社中1社なので1%となります。
3931社中アクセシビリティ方針がるサイトは104社、2.6%となりました。
ゴム製品、その他金融、パルプ・紙、金属製品、石油・石炭、線維製品、倉庫・運輸関連業、鉄鋼、非鉄金属、不動産業は方針数が0でした。方針数が少ないところを見ると、BtoBの企業が多く、個人が見ることを意識していないのかなと思われます。
不動産業などはBtoCの業務もあるかと思いますが、どのような理由があるにせよ、低い結果となりました。
逆に多いのは、サービス業、銀行業、情報・通信業、電気機器、卸売業、医薬品、食料品、保険業といった、普段からBtoCの業務が多そうなカテゴリです。
このあたりは、様々な利用者がいる認識が実際の現場から見えており、意識が高いのではないかと思われます。
特に銀行業、保険業、医薬品業は周りの人全員が必要としてなくても自分には必要、というものを売られているので意識は高いと思います。
対応規格
JIS X 8341-3:2010 | 2 |
JIS X 8341-3:2016 | 82 |
WCAG2.0 | 8 |
WCAG2.1 | 11 |
WCAG2.2 | 1 |
目標とする規格ですが、やはり日本の企業なのでJIS規格がメインです、
JIS規格、WCAG2.1の併用ということもあるので、実際の数字はもう少し異なります。
注目すべきは2.2を目標とする企業が出ているところです(KDDI)。
3大携帯会社といえばKDDI、Softbank、Docomoですが一社だけ特出している状態です。
一社、特出して対応を進めている会社があると競合の企業も並ぼうとするかと思いますので、良い傾向なのではないかと思います。
2.1も1割程度ですが、広まってきているのが良い傾向と言えます。
- 花王
- コニカミノルタ
- 日本碍子
- ルネサスエレクトロニクス
- キヤノン
- リコー
- キヤノンマーケティングジャパン
- 三井住友フィナンシャルグループ
- 北洋銀行
- 日本航空
- ANAホールディングス
- KDDI
が2.1(KDDIは2.2)を目標としていますが、グローバルな展開をしている企業はこのあたりが敏感なのかもしれません。
所感
- Cookieの受け入れなどでサイト下部が隠れているサイトが大量にあり、次の規格更新時に困りそうだなという印象を得ました。Cookieの受け入れはWCAG2.2の「隠されないフォーカス」に影響を受けるのかもしれないと危惧しています。
- アクセシビリティに関係はないですが、「cookieに同意しない場合には、ただちにサイトから退出してください」といった文言や拒否できない(同意するしかない)サイトも数多くあり、ポリシーはないけど利用規約だけはしっかりある、といったサイトオーナー目線で作られているのかな、というサイトが多かったという印象です。
- 「アクセシビリティ対応します!」というサービスを出しているウェブサイト制作企業にアクセシビリティ方針がないことが大多数でした。自社で販売しているサービスを自社で利用や表示せず、サービスを提供していることに対して、弊社のお客様のやり取りでも指摘がありました(サイトオーナー様、制作会社様、弊社の打合せで制作会社様が対応をまだ進めていなかった)。実際の対応の進み具合はともかく、方針を出していることでサンプルにもなるのと医者の不養生、紺屋の白袴と言われないためにも、制作企業にも広まってもらえればと思います。全くアクセシブルではないサイトも制作業者の中にはあり、他人事ながら心配になりました。
- BtoCでも大きなところで未対応のサイトも多くあります。小売、交通など生活インフラにあたる会社にこそ、アクセシビリティ対応を進めてもらいたいなと思います。サービス業、医療、介護、障害にまつわるサイトにも方針がなかったり(特にこういったサイトは明るいイメージのためかコントラスト比が足りないことも多い)、アクセシビリティの認知がまだ足りないのかなと思います。
この調査に対して「同業他社もほとんどやっていないからうちもやる必要はない」となるか、
「同業他社よりも先に出るチャンス」として対応するかで企業としての姿勢は見られるかと思います。
講習会で話す話題に「アクセシブルでないサイトは、アクセシビリティを求める利用者から見限られる」というものがあります。世界の障害者の数は約1割、日本でも高齢者が多くなっています。見限られるサイトにカテゴライズされるのか、どんな利用者でも利用できるサイトにして価値を高めるのか、これからも続くであろうインターネット社会でどうするのかを、サイトオーナー、サイト制作者で考えていく機会に障害者差別解消法改正がなればいいなと思います。